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請求書の相殺とは?仕組みやメリット、処理方法を解説

請求書の相殺とは?仕組みやメリット、処理方法を解説

請求書相殺は、企業間の取引で発生する相互の債権と債務を相殺することで、実際の現金のやり取りを減らし、キャッシュフローの改善や取引コストの削減を図る方法です。

本記事では、請求書相殺の基本的な仕組みやそのメリット・デメリット、具体的な相殺処理の手順について詳しく解説します。相殺処理を適切に行うことで、未払いリスクの軽減や業務効率の向上を実現する方法を理解しましょう。

請求書の相殺とは

請求書の相殺とは、同一の取引先に対して「買掛金」「売掛金」が発生している場合、同じ金額を消し合う処理を言います

企業同士の取引においては、サービスや商品を購入した際、代金を都度支払うのではなく期間ごとにまとめて支払う「掛取引」が主に行われている状況です。相手先のサービスや商品を購入した場合に発生するのが「買掛金」、自社のサービスや商品を売った場合に発生するのが「売掛金」となります。

相殺処理では「売掛金」「買掛金」の消込が可能です。相殺すれば、お金のやり取りや請求書、領収書の発行を減らすことができます。

請求書の相殺のメリット

相殺することで、煩雑な会計処理の負担を軽減できたり、資金繰りの安定化につながったり、さまざまなメリットが生まれます。主なメリットとしては次の3つです。

  1. キャッシュフローの改善
  2. 取引コストの削減
  3. 未払いリスクの軽減

1.キャッシュフローの改善

相殺を実施すれば、支払額の減額が可能です。支払額が減ることで、支出が少なくなり、キャッシュフローの改善につながります。取引先との間で、お金の移動が少なくなるため、管理の手間の削減が可能です。

2.取引コストの削減

相殺を行えば、取引先の会計処理の手間を省いたり、自社の経理担当の負荷を軽減したり会計処理の削減ができます。お金のやり取りを少なくできるため、送金業務の削減が可能です。また、収入印紙代や振込手数料などの費用の削減にもつながります。

3.未払いリスクの軽減

相殺すれば相手先から売掛金の回収が難しい場合でも、自社の損失を最小限に抑えられます。例えば期日を超えても取引先からの支払がない場合、売掛金を相殺し損失を防ぐ方法です。その結果、貸し倒れのリスクを軽減できます。このように、売掛金を回収できない場合の担保機能を果たしていると言えるでしょう。

請求書の相殺のデメリット

相殺処理を行う場合、以下の3つのデメリットもあります。実施するかどうかは、デメリットを考慮して検討するのが良いでしょう。

  1. 相殺の制限
  2. 取引関係の影響
  3. 記帳や管理の複雑さ

1.相殺の制限

取引先との2社間で相殺に必要な条件を満たす必要があります。相殺する場合に必要な条件は次の通りです。

  • 両社間に同種の債権(例:金銭債権)が対立している
  • 相殺を主張する側の債権(自働債権)が弁済期に達している

ただし相殺が認められず、相殺禁止に該当する場合もあります。相殺禁止となる条件は次の通りです。

法律で相殺が禁止されている場合

例えば取引先が支払不能に陥った後、その取引先に買掛金を負担する者が、取引先が支払不能であることを知って取引先に対する売掛金を取得した場合、この取引先に対する売掛金と買掛金を相殺することはできません。

これは他の債権者との公平性を保つためです。 

債務の性質が相殺を許さない場合

民法第505条第1項但書に基づいており、例えば売買契約に基づき商品の引渡し義務を負う者が、商品の引渡し義務を履行せずに当該売買契約に基づく代金債権をもってこれとは別の買掛金債務を相殺することはできません。

これは、相殺を主張する側の代金債権(自働債権)と商品引渡し義務が同時履行の関係にあるためです。 

相殺制限(禁止)特約が結ばれている

民法の契約自由の原則に基づいており、例えば長期の業務委託契約で「未払債務が発生した場合でも、相殺は認めない 」という条件が設けられている場合に適用されます。

このような場合、法律や契約によって相殺が制限されるため、通常の方法で相殺を行うことはできません。ビジネス上で相殺を検討する際は、これらの制限事項に該当しないか確認し、必要に応じて法務部門や専門家に相談することが重要です。

2.取引関係の影響

買掛金と売掛金の支払期日が異なる場合、一時的に資金が減る可能性があります。例えば自社の支払いが15日、取引先の支払いが月末の場合、15日から月末までの期間は資金が減ることになるでしょう。資金繰りが困難になる可能性があります。

相殺後は、処理後の金額が残る形です。つまり、取引金額の確認が困難になります。帳簿から確認しにくい状況は、相殺処理のデメリットと言えるでしょう。後から内容がわかるよう「日付」「買掛金」「売掛金」「取引内容」などをまとめておく必要があります。

3.記帳や管理の複雑さ

自社内において、売掛金の担当者と買掛金の担当者が異なる場合、互いに連携を取る必要があります。そのため、それぞれの経理担当者に連携の負荷がかかることも考えられるでしょう。

相殺の件数が増えるほど、経理担当者の負荷が増大していくため、相殺を実施すべきかどうかを検討することが大切です。相殺処理によってコストが軽減できる一方、関係者の負担が増える可能性があります。

請求書相殺の具体的な方法

相殺を行う場合、対象となる相手先に連絡したり、相殺通知書を作成したり、さまざまな手続きが必要です。ここでは請求書相殺の具体的な方法を順に解説します。

  1. 相殺対象の確認
  2. 相殺の同意取得
  3. 相殺金額の決定
  4. 相殺通知書の作成
  5. 相殺処理の実行
  6. 相殺後の確認

1.相殺対象の確認

相殺を実施する場合、対象の企業と請求書を明確にします。取引先企業と自社の間で、「買掛金」「売掛金」がある状態です。その場合、異なる金額を減額したり、同じ金額を相殺したりできます。

相殺は、法律上の要件を満たせば一方的な意思表示によって実施することが可能ですが、双方の企業が相殺することについて合意した場合には、合意した条件に基づいて相殺を実施することも可能です。

相殺をする場合には、事前に取引条件や契約内容を確認することが重要です。また、相殺を行う際には、相殺対象となる債権債務の内容を詳細に記載し、双方の了承を得ることが求められます。相殺が実行された後は、相殺によって生じた差額や残額を正確に処理し、帳簿に反映させることが必要です。

これにより、取引先とのトラブルを未然に防ぐことができ、監査への対応も的確に行うことができます。

2.相殺の同意を得る

相殺処理は、取引先と自社で合意が取れ、一定の条件を満たしていれば可能です。民法では民法では一方的な意思表示により相殺が可能になっていますが、今後も継続して取引をしていく上では双方の合意を得るのが良い方法となります。相殺処理を行う場合、事前に相手先へ連絡しましょう。

支払期日の関係で、取引先が相殺に同意したくない場合も考えられます。一方的に実施してはトラブルの原因となるので、了承を得て進める方が良いでしょう。

参考:「e-Gov 法令検索「民法第506条(相殺の方法及び効力)

3.相殺金額の決定

取引先が相殺に同意した場合、金額を決定します。金額に関しても、取引先と話し合いの元、決定するのが望ましいでしょう。

また、相殺に関する合意は、書面での確認を行い、双方の認識に齟齬が生じないようにすることが重要です。この際、相殺に関わる条件や期限についても詳細に取り決めておくことが求められます。

特に、相殺後の支払いや債務の履行に関するスケジュールを明確にしておくことで、後々のトラブルを未然に防ぐことができます。さらに、税務上の処理についても、専門家に相談しながら適切に進めることが大切です。

相殺の実施にあたっては、これらの点を十分に考慮し、慎重に対応するよう心掛けましょう。

4.相殺通知書の作成

相殺を行う場合、相殺通知書を作成します。売掛金の相殺で作成し、通知する手順です。

ただし、取引先との合意がある時は相殺通知書を送付しない場合もあります。その時は、相殺通知書の代わりに相殺領収書を使用して、相殺内容を記録として残すようにしましょう。

5.相殺処理の実行

相殺処理では、以下を請求書に書きます。

  • 発行日
  • 金額
  • 振込先情報

また請求書には、相殺前と後の金額を記入します。もしくは、一枚目の請求書に「相殺前の金額」、二枚目の請求書に「相殺後の金額」を記入する方法も可能です。

6.相殺後の確認

相殺後は、内容を記録するために帳票に記載します。取引先と自社間で認識の相違があった場合、トラブルになりかねません。帳票に記載しておくことで、認識の相違を無くすことが可能となります。

相殺処理のマイナス伝票の記帳方法

相殺金額のマイナス表記は、「-」「▲」「△」のいずれかで記載する方法です。例えば、同一の取引先に対して、30万円の売掛金、20万円の買掛金が合った場合は、次の記載となります。

  • 請求金額:300,000円
  • 相殺金額:▲200,000円
  • 差引請求額:100,000円

インボイス制度における請求書相殺

インボイス制度の導入により、請求書相殺の処理にも新たな注意点が加わりました。相殺を行う場合、適格請求書の要件を満たしつつ、相殺の内容を明確に示す必要があります。

適格請求書として認められるためには、以下の項目を必ず記載してください

  • 相殺前の金額
  • 相殺する金額
  • 相殺後の金額
  • インボイス登録番号
  • 適用税率
  • 税率ごとに区分した消費税など

特に注意すべき点として、相殺前後の金額と消費税額を明確に区分して記載することが重要です

また、相殺処理を行った場合でも、元の適格請求書の写しと相殺処理の内容を示す文書を合わせて保存することが推奨されます。電子取引の場合は、これらを電子データで記録し保存してください。

相殺領収書の発行方法

相殺領収書とは、相殺の取引内容を書いておくものです。相殺領収書は、発行の義務はありません。しかし事実を証明するのに役立ちます。取引先との間で請求漏れや二重請求などを防ぐためにも、発行しましょう。

相殺領収書の必要性

相殺領収書は税法上発行が義務付けられていませんが、以下の理由から発行が推奨されます。

  • 相殺処理完了の証明となる
  • 取引の透明性を確保する
  • 将来的なトラブルを未然に防ぐ
  • 内部監査や外部監査での証拠資料となる

相殺領収書を発行することで、取引の透明性が確保され、後々のトラブルを未然に防ぐことができます。特に大規模な取引や継続的な取引関係がある場合、書面での証拠を残しておくことは重要です。仮に紛争が発生した場合にも、相殺領収書は有力な証拠となり、解決をスムーズに進める助けとなるでしょう。

相殺領収書の発行方法

相殺領収書の発行方法は、相殺の形態によって異なります。同一金額の完全相殺の場合と、一部のみ相殺する場合で手順が変わりますので、それぞれの状況に応じた適切な方法を選択することが重要です。以下に、具体的な発行方法を説明します。

同一金額の相殺の場合

  • 両社で同じ金額を記入した相殺領収書を発行する
  • 但し書きに相殺を実施した旨を記載する
  • 金銭の受け渡しが発生しないため、収入印紙は不要

一部相殺の場合(相殺金額が一部のみ)

  • 実際に金銭が動くため、収入印紙の貼付が必要
  • 内訳を明確にするため、相殺に関する金額とその旨を記入する

共通事項

  • 取引先と自社で日付を同じにする(後から突き合わせしやすくするため)
  • 相殺内容を明確に記載する

まとめ

本記事では、請求書相殺について解説しました。

相殺とは、同一取引先との買掛金と売掛金を相互に消し合わせる処理のことです。請求書の相殺はキャッシュフロー改善や取引コスト削減などのメリットがありますが、同時に相殺の制限や記帳・管理の複雑化といったデメリットも存在します。相殺を実施する際は、対象確認から事後確認まで慎重に進めることが重要です。

これらの請求書業務の複雑な処理を効率的に行うためには、専門的なツールの活用が有効です。

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「月次決算に役立つ情報」編集部

執筆・編集

「月次決算に役立つ情報」編集部

Bill Oneが運営する「月次決算に役立つ情報」の編集部です。請求書業務全般の課題や法対応など、経理課題の解決に導く情報をお届けします。
小野 智博

記事監修者のご紹介

弁護士 小野 智博

弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士

保有資格:弁護士

慶應義塾大学環境情報学部卒業。企業のDXサービスについての深い理解に基づき、企業法務を提供している。特に、企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」

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