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法人カード利用でインボイス制度に対応するには?領収書・明細の扱いや仕訳の方法を解説
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インボイス制度の開始により、法人カードを利用した経費精算では、これまで以上に厳格な証憑管理と仕訳処理が求められるようになりました。従来は曖昧になりがちだった証憑の取り扱いや税務処理についても、制度に基づいた対応が必要となっています。
本記事では、法人カード決済における領収書や明細書の扱い方、インボイス制度に対応した経費処理・仕訳の実務ポイントをわかりやすく解説します。
法人カードで経費精算を効率化
法人カード決済時に発行される証憑とインボイス制度での有効性

法人カードを利用すると、クレジットカード明細書・売上票・レシート・領収書など複数の証憑が発行されます。ただし、これらすべてがインボイス制度における「適格請求書」として有効であるとは限りません。ここでは、各証憑のインボイス制度上の有効性と注意点を整理します。
法人カード決済で発行される証憑のうちインボイスとして有効なもの
証憑名 | インボイス制度上の有効性 |
---|---|
クレジットカード明細書 | × (インボイスの要件を満たさない) |
クレジット売上票 | × (インボイスの要件を満たさない) |
レシート(要件不備) | × (インボイスの要件を満たさない) |
領収書(要件充足) | ○ (適格請求書の要件を満たす場合) |
法人カードの利用で受け取る証憑には、上表のとおり有効性に差があります。
特にクレジットカード明細書や売上票はインボイスの要件を満たさないため、仕入税額控除の証憑としては使用できません。
適格請求書とするために必要な6つの要件
|
領収書であっても、発行者が適格請求書発行事業者であり、かつこれらの要件をすべて満たしている場合に限り、インボイスとして有効になります。経費精算時には、証憑の形式だけでなく記載内容も必ず確認することが大切です。
インボイス制度の仕組み
インボイス制度は、2023年10月に導入された消費税の仕入税額控除制度です。課税事業者が仕入額控除を適用するためには、取引ごとに「適格請求書(インボイス)」の保存が必要になります。
インボイスとは、発行者の登録番号、取引年月日、取引内容、税率ごとに区分した金額と消費税額、適用税率、そして買い手の氏名(または名称)といった6つの要件を満たす請求書を指します。
この制度の導入により、証憑管理がより厳格化され、免税事業者との取引では仕入税額控除が認められなくなるなど、経理業務への影響が大きくなっています。
クレジットカード決済で領収書が発行されない理由
クレジットカード決済は、現金の受け渡しを伴わない「信用取引」に該当するため、法的には店舗や事業者に領収書の発行義務がありません。現金決済では代金を直接受け取るため領収書の発行が求められますが、カード決済では実際の支払いは後日カード会社を通じて行われるため、発行義務が生じないのが一般的です。
通常は、利用控えやカード会社の利用明細書が発行されます。顧客対応の一環として領収書を発行する事業者もありますが、その証憑がインボイス制度上の適格請求書として有効かどうかは、記載内容をよく確認する必要があります。
法人カード決済でインボイス制度に対応するために必要なこと

法人カードを利用する際にも、インボイス制度への対応が求められます。ここでは、法人カード決済においてインボイス制度へ適切に対応するために必要なことを、具体的に解説します。
領収書などの回収・保存
法人カードで決済を行った場合でも、領収書やレシートの回収は必須です。インボイス制度では、適格請求書を保存していないと仕入税額控除が適用されないため、証憑の確実な提出が求められます。「カード決済だから領収書は不要」といった誤解を防ぐためにも、社内で提出ルールを明確にし、周知しておくことが大切です。
保存方法は紙・電子のいずれも認められていますが、電子保存を行う場合は電子帳簿保存法における「真実性の確保」と「可視性の確保」の要件を満たす必要があります。具体的には、タイムスタンプの付与や検索機能の確保が該当します。
回収した領収書などの確認
インボイス制度では、提出された領収書やレシートに適格請求書としての要件がすべて記載されているかを確認することが不可欠です。具体的には、登録番号、取引日、取引内容、税率ごとの区分、消費税額、宛名といった6つの項目が揃っている必要があります。これらの情報が不足している場合、仕入税額控除の対象とならない恐れがあります。不備がある場合には、発行元に内容の追加や再発行を依頼する必要があります。
特に、登録番号や税率区分は見落とされやすいため経理部門ではチェックリストなどを活用し、記載内容を確実に確認できる体制を整えることが重要です。
適格請求書発行事業者かの確認
インボイス制度では、仕入税額控除を適用するために、取引先が適格請求書発行事業者として登録されている必要があります。つまり、受領した領収書や請求書は、登録された発行者が発行したものでなければ、控除の対象にはなりません。
取引先が適格請求書発行事業者かどうかを確認するには、国税庁が公開している「適格請求書発行事業者公表サイト」を活用すると良いでしょう。
証憑に記載された登録番号が正しく登録されているかを検索し、照合する必要があります。
特にフリーランスや小規模事業者との取引では登録されていないケースも想定されるため、事前にインボイス発行事業者かどうかの確認を行っておくことが経理実務を円滑に進める上で役立ちます。
インボイス制度で法人カード決済の領収書を扱う際の注意点

法人カード決済で仕入税額控除を受けるためには、領収書の取り扱いについてインボイス制度ならではの注意点を理解しておく必要があります。ここでは、押さえておきたい4つのポイントを紹介します。
1.領収書をインボイスとして扱うための要件
インボイス制度において仕入税額控除を受けるためには、領収書やレシートが適格請求書の要件をすべて満たしている必要があります。具体的には、発行者の登録番号、取引年月日、取引内容、税率ごとに区分した金額と消費税額、適用税率、買い手の氏名または名称の6つの項目が記載されているか確認します。
これらが1つでも欠けている場合、たとえ実際に取引が存在していても控除対象にはなりません。特に記載漏れが生じやすいのは「登録番号」と「税率区分」です。領収書を受領した際には、必ず記載内容を確認し、不備があれば発行元に修正または再発行を依頼する必要があります。
2.法人カード決済のレシートなど領収書の保管期間
法人カードを利用した取引に関する領収書やレシートなどの証憑書類は、法人の場合7年間、個人事業主の場合は原則5年間の保存が法律で義務付けられています。これらは税務調査や申告内容の確認の際に必要となる重要な根拠資料です。
紙での保存だけでなく、スキャンや撮影などによる電子保存も可能ですが、その場合は電子帳簿保存法に定められた「真実性の確保」および「可視性の確保」といった要件を満たす必要があります。保管義務を怠ると、税務上のリスクにつながる可能性があるため、適切な管理体制を整えることが求められます。
3.適格請求書の交付義務が免除される取引
インボイス制度では、すべての取引に対して適格請求書の交付が義務付けられているわけではありません。電車やバスといった交通機関の運賃、自動販売機での購入など、一部取引については制度上、インボイスの交付義務が免除されています。
これらの取引については、帳簿に必要事項を記載することで、仕入税額控除の適用が可能です。
4.カード会社への支払いも仕入税額控除の適用対象
クレジットカード会社に対して支払う法人カードの年会費や手数料も、課税仕入れとして扱われるため、仕入税額控除の対象となります。
ただし、インボイス制度においては、これらの支払いについても適格請求書の保存が必要です。カード会社が適格請求書発行事業者であるかを確認し、発行された請求書が6つの要件を満たしているかをチェックすることが重要です。
法人カード決済の場合の仕訳方法と注意点

法人カードによる決済では、現金取引とは異なる仕訳処理が必要です。インボイス制度の適用により、適格請求書の保存有無が税務処理に影響を及ぼすため、帳簿上も区分を明確にして正確な仕訳が求められます。
法人カード利用時の基本仕訳
法人カード利用時の仕訳は、利用日と支払い日で分けて処理する必要があります。
たとえば、接待交際費として10,000円を法人カードで支払った場合、利用時の仕訳は以下の通りです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
接待交際費 | 10,000円 | 未払金(クレジットカード) | 10,000円 |
同様に、事務用品を5,000円で購入した場合も、
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
事務用品費 | 5,000円 | 未払金(クレジットカード) | 5,000円 |
と記帳します。
その後、カード会社への引き落としが行われた際には、
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
未払金 | 15,000円 | 普通預金 | 15,000円 |
という仕訳を行い、債務の解消を記録します。
このように、利用時と支払い時の仕訳を明確に分けることが、正確な会計処理につながります。
消費税の処理
法人カードを使った課税取引では、消費税を適切に区分して記帳する必要があります。インボイス制度では、仕入税額控除を受けるために、消費税額を明確に仕訳に反映させることが求められます。たとえば、税込11,000円(税抜10,000円、消費税1,000円)の備品を購入した場合、以下のように仕訳します。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
備品費 仮払消費税 | 10,000円 1,000円 | 未払金(クレジットカード) | 11,000円 |
このように、税抜金額と仮払消費税を分けて記帳することで、消費税申告の際に正確な控除処理が可能になります。
インボイス制度対応での仕訳上の注意点
インボイス制度のもとでは、仕訳処理においても適格請求書の保存有無が重要な判断基準となります。適格請求書が保存されていれば、仕入税額控除の対象として処理できますが、保存されていない場合には控除が認められません。
このような場合、当該取引は「課税仕入対象外」として別区分に記録し、仕訳にもその旨の注記をする必要があります。たとえば「※インボイス未保存のため控除不可」などと記載することで、後の税務対応に備えることができます。
まとめ
インボイス制度の導入により、法人カードの利用には証憑の厳格な管理と正確な仕訳処理が求められるようになりました。適格請求書の確認や保存、取引先の登録状況の把握など、経理業務の重要性が増しています。こうした対応を適切に行うことで、仕入税額控除を確実に受けることが可能です。
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記事監修者のご紹介
税理士 松崎 啓介
松崎啓介税理士事務所 所長、一般社団法人租税調査研究会主任研究員
保有資格:税理士
昭和59年~平成20年 財務省主税局勤務
税法の企画立案に従事(平成10年~平成20年 電子帳簿保存法・通則法規等担当)
その後、大月税務署長、東京国税局調査部特官・統括官、審理官、企画課長、審理課長、個人課税課長、国税庁監督評価官室長、仙台国税局総務部長、金沢国税局長を経て令和2年8月税理士登録。
松崎啓介税理士事務所 所長、一般社団法人租税調査研究会主任研究員
主な著書「Q&Aでわかる税理士のためのインボイス制度と改正電子帳簿保存法」(第一法規)、「デジタル化の基盤 電帳法を押さえる」 (税務研究会)等
- 本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。なお、本稿は、読みやすさや内容の分かりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。

執筆・編集
「月次決算に役立つ情報」編集部