- 経理・財務業務その他
経理の繁忙期を乗り切るための効率的な方法を徹底解説
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経理の繁忙期は、企業の財務管理において最も重要な時期の一つです。この時期は年末調整、決算業務、税務申告など、さまざまな業務が重なり、経理部門にとって非常に多忙な時期となります。効率的な業務運営と正確な処理が求められるため、適切なスケジュール管理とタスクの優先順位付けが不可欠です。
本記事では、経理の繁忙期を乗り切るための具体的な対策と、効率化の方法について解説します。
経理の繁忙期とは
経理部門の業務は月次処理や年次処理があるため、月の中でも忙しい時期がありますし、月によっても忙しい時期があります。それぞれどの時期が忙しいのか紹介します。
経理の繁忙期の時期
月次で行う作業としては、月次決算作業、取引先への請求書支払・入金確認業務、給与関連業務などがあります。それ以外にも日々の業務として、伝票の記帳・整理、建替え経費の精算などもあります。
おおよそ、月次作業のスケジュールは以下のようになるでしょう。
日付 | 作業内容 |
---|---|
1日 | 在庫確認 |
10日 | 税金の納付 |
15日 | 帳簿管理 |
20日 | 給与計算 |
25日 | 給与振込日 |
末日 | 社会保険料の納付 |
年次で行う作業としては本決算や四半期決算、株主総会の準備や年末調整関連業務などがあります。一般的にこれらの作業の時期は決まっており、
- 決算業務や株主総会:3〜6月
- 年末調整:12月〜1月
この2つの時期が特に忙しくなるでしょう。
3月期に決算する会社の場合、年次で行う作業を大きくまとめると以下のようになります。
月 | 作業内容 |
---|---|
1月 | 最多63種類(令和6年4月1日時点)の法定調書の作成 |
2月 | 予算計画策定作業 |
3月 | 予算計画策定作業 |
4月 | 本決算作業 |
5月 | 本決算作業 |
6月 | 本決算作業 |
7月 | 四半期決算業務 |
8月 | |
9月 | 固定資産税の納付 |
10月 | 四半期決算業務 |
11月 | 法人税・消費税の中間申告 |
12月 | 年末調整作業 |
経理が繁忙期に忙しくなる理由
企業間の取引では月次でまとめて支払いを行うことが多く、その多くは末日支払いになります。経理担当者はこの納期に間に合うように月末に決算内容を取りまとめて振込処理ができるようにしなければなりません。
また、月初には月末に締め切った処理をまとめて、計算し、源泉徴収した所得税および復興特別所得税を10日までに納付をしなければなりません。他にも、月次決算は締め日から10日以内に報告を求められます。これらの準備が重なるため、特に月初は忙しくなるでしょう。
年単位でみると、年次決算業務、四半期決算業務、年末調整などが忙しくなる大きな要因です。決算報告では事業年度の翌日から2カ月以内に報告を行わなければならないため、この時期は特に忙しくなります。
経理の繁忙期の主な業務
ここまで簡単に忙しくなる要因を紹介しましたが、どのような作業をしているのでしょうか。主な業務内容を4つ紹介します。
- 月末月初の業務
- 年末調整
- 決算業務
- 税務申告
1.月末月初の業務
月末には売上や経費の締めがあります。同一の取引先に対して取引を取りまとめて、売掛金等の請求や買掛金などの支払いを行うことになります。この締め作業は取引先にも影響する業務のため、慎重に行わなければならない業務であるとともに、遅延することができません。そのため、営業部署などに早めに売上の状況を確認するとともに自らの部署でも忙しく働くことになります。
また、月次決算も月初の業務として欠かせない作業となっております。月次決算は企業の売上高や財務状況を把握するためにも早めの対応が求められます。前月の取引が完了したら、月次試算表を作成し、年間計画との差異を洗い出します。経営判断のためにも10日以内に報告を求められることがほとんどです。
2.年末調整
年末調整は主に11月〜1月に行われる作業です。会社は毎月従業員の給与から源泉所得税を支払っていますが、この支払額は概算であり、給与と年間の賞与をあわせた年間総所得額から算出される所得税額とはずれています。これらを一致させる手続きが年末調整です。
年末調整ではさまざまな書類を従業員から回収し、回収した書類をもとに課税給与所得金額を算出し、年間の所得税額を決定します。
また、源泉徴収票と給与支払報告書を作成し、源泉徴収票は従業員と給与支払額が500万円以上になる対象者分に関しては税務署にも提出します。給与支払報告書に関しては従業員が住む市区町村役場へと提出します。
3.決算業務
決算業務とは、決算に向けて報告書をまとめる作業のことを指します。日々の経理の業務でまとめた取引をまとめて決算書類を作っていきます。経理が作成する決算書類は主に下記の2つです。
- 損益計算書
- 貸借対照表
この2つの資料を作成することにより、会社がこの1年どのような事業を行ってきて、どのような成果だったのかを確認することができます。この2つの資料を通じて財務状況を明確にして、株主総会で報告をします。
経理は、日々の仕訳をとりまとめて決算残高を確定させます。これを決算整理仕訳と呼び、買掛金、未払金、棚卸資産、固定資産の処理を行います。
決算残高が確定した後は、勘定科目ごとの詳細を記載した資料を作成します。この資料も法人税の申告時に必要な書類のため、期日を守って作成しなければなりません。
4.税務申告
決算書類と対になってくるのが税務申告になります。決算業務で計算した決算残高などから税金額を計算します。税務申告で支払いが必要になってくる税金は以下の4つです。
- 法人税
- 消費税
- 法人事業税・法人住民税
- 固定資産税(償却資産)
法人税は会社が企業活動によって得た所得にかかる税金です。
消費税は商品などの料金に対して支払わなければならない税金です。支払っているのは消費者になりますが、それを取りまとめて税務署に納付しているのは法人です。法人の場合には事業年度の翌日から2カ月以内に申告及び納付する必要があります。
法人事業税・法人住民税は地方自治体に納付する地方税です。法人事業税は所得に対して課税されますが、法人住民税は所得に関係なく課税されます。税務申告も税務署ではなく、都道府県の税事務所や市役所に対して行います。
固定資産税は現在の固定資産(土地、建物、償却資産など)にかかってくる税金のことです。こちらも法人事業税・法人住民税と同様に地方税になっています。 なお、償却資産に関しては、毎年1月末日までに都道府県の税事務所や市役所に申告が必要になります。
経理の繁忙期の課題
経理の繁忙期には月末月初の対応や決算業務、税務申告などさまざまな業務があります。時期によってはこれらの業務を並行して進めなければならないときもあるでしょう。ここでは経理の繁忙期によくある課題を3つ紹介します。
- 業務量の増加
- 人為的ミスや遅延のリスク上昇
- 業務の属人化
1.業務量の増加
決算時期には通常業務に加えて決算業務がプラスされるので、その分業務量は増加します。
業務量が増加しつつも、その時期は数か月と限られています。
そのため、人手を増やすことも難しいでしょう。その結果1人当たりの業務量が増え、業務時間が長くなってしまう可能性があります。
2.人為的ミスや遅延のリスク上昇
労働時間が長くなることで人為的ミスが発生しやすくなります。部内全体が疲弊しているところで、人為的ミスが繰り返し発生すると、業務の遅延リスクも上昇していきます。
遅延リスクが高まってくると、今度は遅れを取り戻そうとさらに労働時間が長くなります。その結果、経理部全体で悪循環が発生してしまうことも珍しくありません。
3.業務の属人化
忙しいときであればあるほど、周りの人に手伝ってもらえないことも多いため、1人でやらなければならない作業が多くなります。その結果、徐々に担当者が決まっていき、属人化が進んでいきます。
属人化が進むと、特定の人しか業務をわかっている人がいなくなり、経理作業がブラックボックス化していきます。担当者が定年や転職などで抜けた際に業務が止まってしまうなどのリスクが発生します。
繁忙期を乗り切るための準備
経理部の場合、繁忙期は必ず訪れるものです。それでは、どのように繁忙期を乗り切ったらよいのでしょうか。ここでは繁忙期を乗り切るための工夫を3つ紹介します。
- スケジュールの策定
- 事前準備
- 資料やデータの整理
1.スケジュールの策定
繁忙期ではさまざまな業務を並行して行わなければなりません。しかし、人は複数の作業を同時に行うことができないため、複数のタスクを並行して進めようとすると頭が混乱してしまいがちです。
そのため、事前にスケジュールを策定しておくことで、効率よく作業ができるでしょう。
2.事前準備
事前準備をしておくことも繁忙期を乗り切るためには重要なことです。経理部では締め日が来てからでしか対応できない業務もある一方で、事前に準備ができるものも多くあります。
また、コミュニケーションも大切です。経理部の従業員間でも、有給などを取得する場合にはいつ取得するかを事前に共有しておくことで、繁忙期に慌てずに済むこともあります。
3.資料やデータの整理
資料やデータを事前準備しておくことも重要です。経理は多くの書類を処理し、作成する必要があります。毎回、探して対応するとなると無駄な時間がとられることになります。事前に資料やデータの場所を把握しておくようにするとよいでしょう。
また、書類を電子化してクラウドに保存するのも1つの手です。紙の書類では探すのに手間がかかりますが、クラウドに保存しておけば、検索機能で一発で必要な書類を見つけだすことが可能です。他の人と書類のやり取りをする場合にもクラウドで共有すると簡単に作業ができます。
繁忙期におけるリスク管理
繁忙期は労働時間が長くなるため、人的ミスが発生しやすい環境になります。そのため、ミスが発生したときに被害を最小限にとどめ、リカバリをしやすくするためのリスク管理が重要になります。ここではリスク管理の方法を紹介します。
データのバックアップ
一番怖いミスの1つがデータの誤削除です。資料を一から作りなおす必要があるため、多くの時間を浪費することになります。中には従業員から集めてきたデータもある可能性があり、従業員から集め直さなくてはならないなど、他部署に迷惑をかけるケースがあります。
そのため、こまめにデータのバックアップを取るようにしましょう。データを誤って消してしまってもすぐに復旧ができる体制を整えておくことで無駄な時間を浪費せずにすみます。
クラウドに保存しておけば、随時バックアップを自動でとってくれることも可能なので、クラウド上で作業できる場合にはクラウド上で作業をしましょう。
セキュリティー対策
経理部は取引先のデータや従業員の個人情報など多くの機密情報を扱うことになります。そのため、セキュリティー対策は欠かせません。
ネットワークのセキュリティー対策や、資料の紛失などのリスクを防ぐのも重要なことです。近年よくある個人情報の流出パターンとして、個人情報が入ったUSBやPCを自宅へ持って帰って仕事をしようとする際に紛失してしまったというパターンです。
このようなパターンを防ぐためにも、自宅での作業は控えるようにする、個人情報を含むデータはすべてクラウドに入れてパスワードをかけておくなど、対策をとるようにしましょう。
エラーの早期発見と対応
経理部では作業効率化のために複雑な関数でExcelの入力量を減らしたり、ツールを利用して自動化できるようにしていることが多いでしょう。しかし、これらのツールでエラーが発生した際に対応できる人が限られる場合、業務が滞り、属人化にもつながります。
さらに、ツールがブラックボックス化してしまうことにもつながります。エラーが発生したときに迅速に対応できるように、FAQやマニュアルの整備などを行いましょう。
経理を効率的に行う方法5選
繁忙期を効率的に乗り切るために工夫も必要になります。ここでは経理が効率的に業務を行う方法を5つ紹介します。
- タスクの優先順位付け
- 体制の強化
- ソフトウエアとツールの活用
- 業務の標準化
- 業務の一部をアウトソーシング
1.タスクの優先順位付け
繁忙期にはやるべきタスクが多く存在します。タスクを効率的に消化するためには、やるべきタスクの順番を決めておくことが重要になります。
よく言われるのが以下の順番で対応することです。
- 緊急度が高く、優先度も高いタスク
- 緊急度が高く、優先度が低いタスク
- 緊急度が低く、優先度が高いタスク
- 緊急度が低く、優先度も低いタスク
これらの順番で対応することで、タスクを効率よく消化できるようになります。しかし、この優先度付けが難しいというパターンもあるでしょう。
その場合に備えて、緊急度を判断する指標、優先度を判断する指標を事前に部内で明確にしておく必要があります。判断できない場合に備えて、コミュニケーションフローなども作っておくとよいでしょう。
2.体制の強化
繁忙期はタスク量が増加するため、それに合わせて人手も確保したいところです。繁忙期は数か月単位のため、その時期だけ人を雇うというのは難しいでしょう。機密情報を扱っていることも多いため、数か月単位で人を雇うことにはリスクが伴います。
情報漏えいのリスクも抑えることができるため、有用な手段と言えます。繁忙期には経理部以外の人と調整し、一部業務を担ってもらうなど体制を強化してみるとよいでしょう。
3.ソフトウエアとツールの活用
経理部の仕事は法令対応の作業も多く、定型化しやすい作業のため、ソフトウエアの導入やツールの活用と相性がよい傾向にあります。
例えば、日々の仕訳をデータとして入力しておくだけで、仕訳の取りまとめを行ってくれるツールや、年末調整で必要な書類を自動で作成してくれるソフトウエアなどがあります。これらのソフトウエア・ツールを導入することで繁忙期の作業を省力化してくれます。
4.業務の標準化
1人に業務を集中させてしまうということは、その人が作業上のボトルネックになりやすいことを意味します。特に属人化している場合、遅延している作業をリカバリできなくなってしまいます。
そのような遅延を防ぐために業務を標準化しておくことが大切になります。手順書やマニュアルを作成することで、誰でも作業できるようになり、不慣れな場面でも効率化が計れます。
5.業務の一部をアウトソーシング
繁忙期には、社内のリソースだけでは全てのタスクをこなすことが困難な場合があります。そのような状況では、業務の一部をアウトソーシングすることが効果的な解決策となります。
アウトソーシングを活用することで、専門知識の活用、コスト削減、リスク管理、そして社内リソースの最適化といったメリットを得ることができます。
ただし、業務の適切な切り分けや品質管理、情報共有体制の構築には注意が必要です。適切にアウトソーシングを活用することで、繁忙期の業務負荷を軽減しつつ、経理部門全体の生産性を向上させることができます。自社の状況を十分に分析し、最適なアウトソーシング戦略を立てることが重要です。
まとめ
経理部門では、月次決算や年末調整、確定申告などの業務により定期的に繁忙期が訪れます。この時期は業務量が増加し、長時間労働や人的ミスのリスクが高まります。これらの課題に対処するためには、適切な準備と効率化が不可欠です。
具体的には、スケジュールの策定や事前準備、資料やデータの整理が重要です。また、タスクの優先順位付けや体制の強化、業務の標準化などを通じて、効率的に業務を進めることが可能となります。特に、ソフトウエアやツールの活用は、定型作業の多い経理業務との相性が良く、大きな効果を発揮します。
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執筆・編集
「月次決算に役立つ情報」編集部
記事監修者のご紹介
弁護士 小野 智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
保有資格:弁護士
慶應義塾大学環境情報学部卒業。企業のDXサービスについての深い理解に基づき、企業法務を提供している。特に、企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」
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