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債権とは?債権管理の効率化とトラブル回避のポイントをわかりやすく解説
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企業の安定経営には健全な財務状況が不可欠です。その基盤となるのが、債権の適切な管理です。債権管理を怠ると、未回収や貸倒れのリスクが高まり、資金繰りが悪化する可能性もあります。
今回は債権の基本的な概念から、発生・回収までの流れ、そして効率的な管理方法やトラブル回避のポイントについて、わかりやすく解説します。債権管理の課題を解決し、経理業務の負担を軽減する具体的な方法を知るうえで、ぜひこの記事を参考にしてください。
債権とは?基本概念を理解する

債権の管理は、企業の財務状況に関わる重要な業務です。この記事では、債権の基本的な概念とともに、その種類や役割、債権者と債務者の関係性について解説します。
債権の定義と役割
債権とは、債権者が債務者に対して、金銭の支払い、商品の引渡し、またはその他特定の行為を請求できる権利を意味します。債権は企業の資産としてバランスシートに計上され、キャッシュフローの確保や資金調達の基盤となる重要な要素です。
円滑な債権回収は企業の資金繰りや経営の安定性に直結し、信用取引の根幹を支えるとともに、取引先との信頼関係を構築するためにも欠かせません。債権を適切に管理することで、不良債権の発生や貸倒れリスクが低減され、結果として経営の健全性が維持されます。
債権の種類
債権には、その発生原因や性質によってさまざまな種類があります。主な種類として挙げられるのは、売掛金、貸付金、前受金などです。
売掛金 | 商品やサービスの提供後、代金が未回収の状態(例:小売店が顧客に商品を販売した際に発生する売掛金など) |
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貸付金 | 企業が他の企業や個人にお金を貸し付けた状態(例:金融機関が企業に融資を行うなど) |
前受金 | 商品やサービスの提供前に代金を受け取った状態(例:建設会社が工事着工前に顧客から受け取る前受金など) |
業界によっては、特有の債権が発生することもあります。たとえば、不動産業界の敷金や保証金、保険業界の保険料債権などはその一例です。
債権者と債務者の関係
債権を保有する側は債権者、債務を負う側は債務者と呼ばれます。
債権者は債務者に対して債務の履行を請求する権利を有し、債務者は債権者に対して債務を履行する義務を負います。たとえば、商品を販売した企業は売掛金の債権者、購入企業は代金支払いの債務者です。
この関係は取引の信頼性を確保し、双方が契約に基づく責任を果たすことで、ビジネスが円滑に進められます。
債権の消滅時効
債権には時効があり、一定期間が経過すると債権者が債務者に対して債務の履行を請求する権利を失う可能性があります。債権の消滅時効は以下の場合に成立します(民法第166条)。
- 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき
- 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき
なお、以下のケースでは時効期間の進行が一時中断(時効の完成猶予)します。
裁判上の請求 | 支払いを求めて訴訟を起こした場合 |
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支払い督促 | 金銭などの一定額の支払いを求めて、簡易な手続で裁判所に支払い督促を申し立てる場合 |
仮差押え | 裁判所を通して債務者が財産を売却等できないようにする場合 |
裁判外の催告 | 内容証明郵便などで支払いの請求をする場合 |
協議の合意 | 支払いについて協議を行う旨の合意を書面で行う場合 |
天災等 | 地震や洪水などの自然災害、暴動や戦争などが発生した場合 |
債務者が支払い義務を認めた場合(債務の承認)や、裁判で債権者の訴えを認める判決が確定した場合、債権者が裁判所を通して強制的に取り立てた場合(強制執行・競売)は「時効の更新」となり、時効期間がリセットされます。
債権管理の基本フロー

債権は企業の売上や貸付など、さまざまな取引をきっかけに発生します。ここでは債権の発生から消滅までの基本的な流れを見ていきましょう。
発生・記録
債権が発生するタイミングは、企業が商品やサービスを提供した時点です。債権が発生したら、債権の種類、金額、債務者名、発生日などの情報を正確に記録する必要があります。
記録方法としては紙の帳簿に加え、Excelなどの表計算ソフトや会計ソフトを使用するケースが一般的です。近年ではクラウド型の債権管理システムを利用する企業も増えています。
回収・消滅
債権の回収方法は、現金、銀行振込、手形など、取引の内容や契約によって異なります。通常は設定された支払い期日に債権の回収が行われますが、支払い遅延や未払いのケースでは、必要に応じて法的手段がとられることもあります。
債権が消滅するタイミングは、債務者が債務を履行し、債権者がその支払いを確認した時点です。なお、債権者が債権を放棄した場合や、債務者に債務を免除した場合などにも、債権は消滅します。
債権管理のよくある課題

債権管理は企業の健全な財務状況を維持するために非常に重要ですが、そのプロセスにおいてはさまざまな課題に直面することがあります。ここでは債権管理において頻繁に発生する課題と、その解決策について解説します。
未回収債権の発生
未回収債権とは支払い期日を過ぎても回収できない債権のことで、債務者の支払い遅延や倒産など、さまざまな原因で発生します。
未回収債権は企業の資金繰りを悪化させ、収益に悪影響を及ぼす要因です。また、未回収債権を放置することで不良債権となり、さらに回収が困難になることもあります。
債務者の支払い能力や信用情報を事前に確認すること、督促を適切に行うこと、必要に応じて法的措置を検討することなどが、未回収債権の発生を抑制するための有効な手段です。
貸倒れのリスク
貸倒れとは、債務者の倒産や行方不明などにより債権の回収が不可能になった状態です。
貸倒れが発生すると、企業は債権額を損失として計上しなければならず、財務状況に大きな影響を与えます。
貸倒れのリスクを軽減するためには、債務者の信用調査を徹底すること、担保や保証人を設定すること、債権保険に加入することなどが有効です。
債権管理の複雑化
企業の事業規模が拡大したり取引先が増加したりすると、債権管理業務が複雑化し、担当者の負担が増加します。こうした負担は債権管理の効率を低下させ、未回収や貸倒れのリスクを高める可能性があります。
この課題を解決するためには、債権管理システムを導入したり、業務プロセスを改善したりすることが有効です。
債権回収のプロセス

債権回収は、未払いの債権を回収するための一連の法的・実務的な手続きです。債務者の状況や債権の種類に応じて適切な手段を選択し、段階的に進めていく必要があります。
1. 話し合い
債権回収の最初のステップは、債務者との話し合いです。電話や面会を通じて未払いの原因や支払いの意思を確認し、可能な限り友好的な解決を目指します。
2. 内容証明郵便の送付
話し合いによる解決が難しい場合は、内容証明郵便を送付します。内容証明郵便とは、いつ、誰が、誰に、どのような内容の文書を送ったかを郵便局が証明してくれる郵便です。
債務者に対しては債務の存在と支払いを正式に請求する効果があり、その後の法的手続きにおいても重要な証拠となります。
3. 民事調停手続/支払い督促/訴訟
内容証明郵便を送付しても支払いが行われない場合は、法的手続きを検討します。法的手続きは大きく分けて、以下の3通りです。
民事調停手続 | 裁判所の調停委員を介して、債権者と債務者が話し合い、合意による解決を目指す手続き |
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支払い督促 | 裁判所に支払い督促を申し立て、債務者に支払いを命じる手続き。債務者が異議を申し立てなければ、強制執行が可能になる |
訴訟 | 裁判所に訴状を提出し、判決を求める手続き。少額訴訟、通常訴訟など、債権額や争点に応じていくつかの種類がある |
4. 強制執行
強制執行とは、国が強制力を使って債務者の財産を差し押さえ、債権を回収する手続きです。
判決や支払い督促などを通して債務名義(確定判決など)を取得したにもかかわらず、債務者が任意に支払いを行わない場合は、強制執行の手続きを行います。
トラブル回避のポイント

債権回収におけるトラブルを未然に防ぐためには、事前の対策が重要です。契約段階から適切な対応をしておくことで、後々のリスクを大幅に減らすことができます。
契約内容を明確にする
契約を締結する際には取引内容を明確に定め、書面に残しておくことが重要です。あいまいな表現は避け、双方が理解しやすい内容にすることで、後のトラブルを防止できます。
支払い条件を明記する
支払い期日、支払い方法、遅延損害金など、支払い条件についても明確に定めておく必要があります。支払い期日を明確にすることで債権回収のスケジュールを立てやすくなるうえ、遅延損害金を設定することで債務者に支払いを促す効果も期待できます。
信用情報を調査・管理する
取引を開始する前に、債務者の信用情報を調査することも非常に重要です。信用調査機関の利用や、財務諸表などの資料を確認することで、債務者の支払い能力を把握できます。
また、取引開始後も定期的に信用情報を更新し、債務者の状況を把握しておく必要があります。
債権棚卸しを定期的に行う
債権棚卸しとは、保有する債権の状況を定期的にチェックし、回収状況や未回収債権、貸倒れリスクを把握する作業です。取引先ごとの状況や支払い遅延の傾向を分析し、管理することで問題の早期発見と迅速な対策が可能になります。
債権棚卸しは、決算時だけでなく、四半期ごとや毎月など、定期的に行うことが望ましいでしょう。
債権管理を効率化する

債権管理を効率化することは、企業の資金繰りを円滑にし、安定的な経営基盤を築くうえで不可欠です。ここでは債権管理を効率化するための具体的な方法として、債権譲渡と債権管理ツール・システムの活用について解説します。
債権譲渡の活用
債権譲渡とは、債権者が保有する債権を他の企業や個人に譲り渡す契約です。債権を譲り渡すことで、債権者はすぐに現金化できるため、資金繰りの改善に役立ちます。また、債権回収の手間を省くことができるのも債権譲渡のメリットです。
債権譲渡を行う際には、債務者の承諾が必要かどうかについて、当該債権を発生させた契約の内容を確認したうえで、必要な対抗要件を備えることが重要です。
債権管理ツール・システムの活用
近年、クラウド型債権管理システムなどのITツールが普及し、債権情報の一元管理が容易になりました。こうしたツールを活用すれば、取引先ごとの債権状況や回収状況をリアルタイムで把握でき、管理負担の大幅な軽減が期待できます。
請求情報と入金情報の一元管理や入金消込の自動化機能などにより、人為的なミスを減らし、正確な債権管理を実現できる点も大きなメリットです。債権管理にかかわる担当者が統一された情報を確認することで、社内のコミュニケーションが円滑になり、企業全体の生産性も向上します。
入金管理についての詳細はこちらの記事をご覧ください。
経理業務の自動化についての詳細はこちらの記事をご覧ください。
まとめ
この記事では、債権の基本的な概念から、発生・回収までの流れ、そして効率的な管理方法やトラブル回避のポイントまでを解説しました。債権は企業の重要な資産であり、その適切な管理は、健全な財務状況を維持し、安定的な事業運営を実現するために不可欠です。
債権管理を効率化するためには、契約段階からトラブルを未然に防ぐための対策を講じること、そして債権の可視化を図り、適切な管理体制を構築することが重要です。債権管理システムの導入や業務プロセスの改善など、積極的に取り組むべき課題は多くあります。
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記事監修者のご紹介
弁護士 小野 智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
保有資格:弁護士
慶應義塾大学環境情報学部卒業。企業のDXサービスについての深い理解に基づき、企業法務を提供している。特に、グローバル事業の支援を得意とし、「国際ビジネス法務サービス」を提供している。また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」
- 本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。なお、本稿は、読みやすさや内容の分かりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。

執筆・編集
「月次決算に役立つ情報」編集部