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減価償却とは?対象となる資産や耐用年数のルール、計算方法を解説
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減価償却とは、簡単に言うと「経費を計上する際の処理方法のひとつ」です。事業者は、事業に必要な経費を売り上げから差し引いて税金の計算をしますが、減価償却資産と呼ばれる特定の資産を購入したときは、減価償却費として経費計上しなければいけません。本記事では、減価償却の基本について解説します。
減価償却とは
法人や個人事業主が特定の固定資産を経費計上する際は、減価償却の必要があります。まずは、減価償却とはどのようなもので、なんのために行われるのかを見ていきましょう。
減価償却は経費計上方法のひとつ
減価償却は、経費の計上方法の一種です。
減価償却の対象となる試算を、減価償却試算といいます。具体的には、建物や車両、機械設備、ソフトウエア、特許権などが該当します。これらの資産は毎年少しずつ価値が減少していくため、購入時に一括計上するのではなく、その減少分を考慮しながら複数年にわたって費用計上します。
なお、減価償却をすると、実際の資金の動きと減価償却費の計上タイミングが一致しません。購入したときに一括で費用を支払っていたとしても、複数年にわたって計上を行います。2年目以降は現金の支出がなくても経費計上が行われる点に注意しましょう。
減価償却の目的
減価償却は「費用収益対応の原則」に基づいた経費計上を目的として行います。この原則は「一定期間の収益を生み出すために必要とした経費のみを計上する」という考え方です。
たとえば、1個100円で50個商品を仕入れた場合、5,000円の経費が生じます。しかし、事業年度中に売れたのが30個だけだった場合、経費として計上できるのは100円×30個=3,000円です。
同様に、長期的に価値を生み出す資産を取得した場合は、耐用年数に応じた年数で取得価額を分割して経費計上しなければいけません。これによって、固定資産を取得した年の経費だけが大きくなることを防ぎ、会計期間ごとの正確な損益を求められます。
耐用年数のルール
耐用年数とは、減価償却の対象になる固定資産の価値がなくなるまでの期間です。減価償却では、資産の種類ごとに定められた耐用年数に応じて、取得価額の分割計上を行います。
なお、耐用年数はあくまでも税法上の使用期間で、実際に何年使用できたかは関係ありません。主な減価償却資産の耐用年数は、国税庁の資料から確認できます
<耐用年数の例>
- 事務机や椅子、キャビネット(金属製)…15年
- 同上(それ以外)…8年
- パソコン(サーバー用以外)…4年
- 普通自動車(一般用)…6年
- 軽自動車(一般用)…4年
減価償却の対象になる資産・ならない資産
減価償却の対象になる資産とならない資産について、正しく見分けられるようにしておきましょう。それぞれの特徴と主な例を紹介します。
減価償却の対象となる資産
減価償却の対象になる資産は、以下の2種類に大別できます。
- 有形減価償却資産
- 無形減価償却資産
それぞれの特徴と主な例について見ていきましょう。
有形減価償却資産
有形減価償却資産とは、長期的に利用が可能な形のある固定資産です。ただし、土地や骨董品など、時間を経ても価値の変わらないものは含まれません。
有形減価償却資産の具体例は以下の通りです。
資産の種類 | 具体的な内容 |
---|---|
建物 | 事務所や店舗などの建築物 |
建物附属設備 | 店舗の日よけや電気設備、給排水設備など建物と一体となる設備 |
車両 | 小型車、自転車、トラックなど |
機械・装置 | 製造業や鉄鋼業、農業など業務に利用する設備 |
無形減価償却資産
無形減価償却資産は、長期的に利用できる形のない資産です。具体的には、権利やソフトウエアなどのうち、1年以上の長期にわたって収益を生み出すものが該当します。
具体例は以下の通りです。
- ソフトウエア
- 営業権
- 漁業権
- 商標権
- 特許権
- 実用新案権
- のれん(M&Aの営業権)
生物
業務に使用する生物も、減価償却資産の対象です。例えば、農業を営んでいる場合の果樹や、畜産業を営んでいる場合の牛や豚などが該当します。
ただし、生物の減価償却は、通常の減価償却とは計上タイミングが異なる点に注意してください。苗などを買ったタイミングと売り上げにつながるタイミングが異なることから、成熟したタイミングで計上を開始します。
所得税法によって定められている、減価償却の対象生物は以下の通りです。
九 次に掲げる生物(第七号に掲げるものに該当するものを除く。) イ 牛、馬、豚、綿羊及びやぎ ロ かんきつ樹、りんご樹、ぶどう樹、梨樹、桃樹、桜桃樹、びわ樹、くり樹、梅樹、柿樹、あんず樹、すもも樹、いちじく樹、キウイフルーツ樹、ブルーベリー樹及びパイナップル ハ 茶樹、オリーブ樹、つばき樹、桑樹、こりやなぎ、みつまた、こうぞ、もう宗竹、アスパラガス、ラミー、まおらん及びホップ |
減価償却の対象外となる資産
1年以上利用できる固定資産であっても、長期的に利用しても価値が減少しないものは減価償却資産の対象外です。このような資産は「非減価償却資産」と呼ばれます。
非減価償却資産の具体例としては、以下のようなものがあります。
- 土地
- 借地権・地上権など土地の権利
- 1点100万円以上の骨董品や美術品などのうち、時間経過で価値の減少しないもの
- 建設中の建物(完成した部分が事業に使用されていれば、その部分は対象)
- 貴金属の価格が取得価額の大部分を占め、なおかつ一定期間経過後に鋳直して再利用するもの
- 定期メンテナンス等が行われておらず即時再稼働ができない遊休資産
なお、事業に必要な土地を購入した場合は、経費ではなく資産を購入したとみなされるため、経費計上自体できません。ただし、土地の購入に際して発生した不動産取得税や司法書士報酬などは経費計上可能です。
減価償却の計算方法
減価償却の計算方法は、以下の3種類に分けられます。
- 定額法
- 定率法
- 生産高比例法
どの方法で計算を行うかは事業者が任意に決定し、所轄の税務署長に届け出を行います。ただし、届け出を行わなかった場合も、法定の償却方法で計算すれば問題ありません。法定の償却方法は以下の通りです。
- 法人:建物や無形固定資産など一部は定額法、それ以外は定率法
- 個人事業主:定額法
定額法
定額法は、耐用年数の間、毎年同じ金額を減価償却する計算方法です。個人事業主の減価償却や、建物などの減価償却では、定額法を利用します。
定額法の計算式は以下の通りです。
減価償却の額=取得価額×定額法の償却率 |
取得価額とは、減価償却資産の購入額のことです。また、償却率は耐用年数ごとに定められています。国税庁の償却率等表を参照してください。なお、耐用年数も国税庁のサイトで確認できます。
<定額法の減価償却の例>
40万円のパソコンを購入した場合について、計算してみましょう。パソコンの耐用年数は4年、定額法の償却率は0.25です。
40万円×0.25=10万円
よって、毎年10万円ずつ費用計上します。
毎年同じ金額を計上する定額法は、比較的わかりやすい計算方法です。定額法では、初年度の経費計上額が定率法よりも低くなるため、購入した年度の利益が高くなります。
定率法
定率法は、毎年同じ割合で減価償却する方法です。未償却残高に一定割合をかけて算出するため、計上する金額は初年度がもっとも高額で、その後少しずつ低くなっていきます。
定率法の計算は、以下のうち高いほうを利用します。
- 減価償却額=未償却残高×償却率
- 減価償却額=未償却残高×保証率
償却率と保証率は、法定耐用年数ごとに国税庁が定めています。償却率等表を確認しましょう。
ただし、計算結果が償却保証額を下回った場合、それ以降は毎年同じ金額を計上します。償却保証額は、以下の計算式で算出します。
償却保証額=取得価額×保証率 |
定率法の計算結果が上記の金額を下回ったときは、それ以降、以下の計算式で算出した金額を償却してください。
減価償却費=未償却残高×改定償却率 |
<定率法の減価償却の例>
40万円のパソコンを購入した場合について、計算してみましょう。パソコンの耐用年数は4年、定率法の償却率は0.5、保証率は0.12499、改定償却率は1です。
- 償却保証額
40万円×0.12499=49,996円
- 費用計上額
計算式 | 償却額 | |
---|---|---|
1年目 | 40万円×0.5 | 20万円 |
2年目 | (40万円-20万円)×0.5 | 10万円 |
3年目 | (20万円-10万円)×0.5 | 5万円 |
4年目 | 5万円×1-1円 | 49,999円 |
4年目の減価償却費は、以下のように求めます。
5万円(未償却残高)×0.5=2万5,000円<償却保証額(49,996円)
上記により、未償却残高(=5万円)×改定償却率(=1)=5万円です。
ただし、法定耐用年数経過後も資産が残っている場合、1円を残す処理を行います。そのため、計上額は49,999円です。この処理について、詳しくは後述します。
定率法は、資産の取得費用を早期に計上できる点がメリットだといえるでしょう。一方で、定額法よりも計算方法は複雑です。
生産高比例法
生産高比例法は、減価償却資産によって生み出された生産高に応じて費用を計上する方法です。鉱業用設備や航空機、自動車など、正確に生産量を予想できる場合に限り利用できます。
もっとも費用収益対応の原則に即した償却方法ですが、定額法や定率法に比べ、管理が困難です。
減価償却費の仕訳方法
減価償却費は、直接法、あるいは間接法で仕訳します。それぞれの仕訳方法について、具体例をまじえて見ていきましょう。
直接法
直接法は、固定資産の金額から減価償却費を毎年差し引いていく仕訳方法です。固定資産の取得価額から減価償却費を引いていくことで、最終的に減価償却資産の未償却額が0円になります。
直接法は計算方法がわかりやすく、未償却額の把握も容易です。一方で、減価償却資産の取得価額が帳簿上ではわからないという難点もあります。取得価額を知りたい場合は、固定資産台帳などを確認しなければいけません。
<直接法の仕訳例>
取得価額40万円、耐用年数4年のパソコンを定額法で計算した場合
借方 | 貸方 |
減価償却費 / 100,000 | 固定資産 / 100,000 |
間接法
間接法は、減価償却累計額という費目を設けて、減価償却費の推移を把握しやすくする仕訳方法です。固定資産の取得価額が一目でわかるため、減価償却資産の数が多い事業者に適しています。
一方で、未償却額については取得価額から減価償却累計額を引いて算出しなければいけません。
<間接法の仕訳例>
取得価額40万円、耐用年数4年のパソコンを定額法で計算した場合
借方 | 貸方 |
減価償却費 / 100,000 | 減価償却累計額 / 100,000 |
減価償却の注意点・ポイント
減価償却費を計上するときの注意点を紹介します。制度を理解したうえで、正しく計上しましょう。合わせて、便利な特例についても見ていきましょう。
資産ごとの耐用年数を確認する
減価償却資産は、それぞれの耐用年数が細かく規定されています。耐用年数を間違えると、減価償却を正しく行えません。必ず個別に確認してください。
耐用年数は、国税庁の「主な減価償却資産の耐用年数表」で調べられます。ただし、この表はあくまでも主な減価償却資産の耐用年数表であるため、記載がないものもあるでしょう。耐用年数表に該当の資産がない場合や、どの項目に該当するかわからない場合は、顧問税理士や税務署に確認しましょう。
減価償却は使用開始月から計上する
減価償却費は、該当の資産の使用を始めた月から計上を始めます。購入した月からではないので注意してください。
たとえば、4月から3月までが会計年度の会社が、10月に自動車を購入したとします。この自動車を11月から使用し始めた場合、初年度は1年分の減価償却費×12分の5(11月から3月までの5カ月分)を計上します。
少額の減価償却資産と一括償却資産について理解しておく
減価償却資産のうち、取得価額が一定以下のものなどについては、通常とは異なる処理を行う場合があります。少額の減価償却資産と一括償却資産について知っておきましょう。
- 少額の減価償却資産
減価償却資産のうち、取得価額が10万円未満、または使用可能年数が1年以内のものは、減価償却せず、一括計上します。減価償却費としてではなく、消耗品費などの勘定科目を使用しましょう。
- 一括償却資産
取得価額が10万円以上20万円未満の資産は、耐用年数に関わらず3年間の均等償却が可能です。通常の減価償却とどちらを利用するかは任意で決められます。経営状況などに応じて選択しましょう。
中小企業・個人事業主の特例がある
中小企業や個人事業主が減価償却資産を購入した場合は「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」を利用できます。
対象者は、常時使用する従業員数が500人以下などの要件を満たす青色申告法人または青色申告者です。該当する事業者が30万円未満の減価償却資産を取得した場合、購入した年度に一括して経費計上できます。
ただし、年度内の適用可能上限額は300万円です。ルールを十分確認したうえで利用しましょう。
残存簿価の扱いに気を付ける
法定耐用年数経過後にも資産が残っている場合は、固定資産の管理のために1円の資産価値があるものとみなします。これが「残存簿価」です。残存簿価は、該当の資産を廃棄した際に処理します。
40万円のパソコンを法定耐用年数経過後に処分した際の仕訳は以下の通りです。
借方 | 貸方 |
減価償却累計額 / 399,999 | 器具備品 / 400,000 |
固定資産税除却損 / 1 |
なお、固定資産税除却損とは、固定資産を処分した際の経理処理に使用する勘定科目です。耐用年数が残っている固定資産を廃棄した際にも利用できます。
パターンに応じて適切な処理を行う
購入した減価償却資産が中古だった場合や、減価償却の途中で資産を処分した場合などは、状況に応じた処理を行わなければいけません。処理方法について解説します。
購入した資産が中古だった場合
減価償却資産を中古で購入した場合、取得価額が新品で購入した場合の50%を超えるか否かで処理方法が決まります。
- 取得価額が50%を超える場合
新品を購入した場合と同様に、法定耐用年数を使って減価償却費の計算を行います。
- 取得価額が50%以下の場合
取得価額が新品購入価格の50%以下の場合は、実際に使用できる年数を見積もって減価償却費の計算を行わなければいけません。ただし、見積もりが困難な場合も多いことから「簡便法」の利用も可能です。
簡便法では、法定耐用年数を基に以下のように計算を行います。
- 法定耐用年数が過ぎている減価償却資産
法定耐用年数×0.2
- 法定耐用年数の一部のみが経過している減価償却資産
(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×0.2
計算方法などに不安がある場合は、顧問税理士や税務署に確認して手続きを進めましょう。
資産を廃棄する場合
法定耐用年数が経過していない減価償却資産を廃棄する場合は、帳簿上に残った未償却残高をゼロにしなければいけません。未償却残高を「固定資産除却損」として計上しましょう。
150万円以上の固定資産には償却資産税が課せられるため、未償却残高を正しく処理することが大切です。なお、廃棄料が生じた場合も「固定資産除却損」で計上します。
資産の使用をやめる場合(除却)
法定耐用年数の残っている減価償却資産について、廃棄せず手元に残したまま使用を取りやめる場合は「除却」という処理が可能です。
除却をする場合も、帳簿上では未償却残高を「固定資産除却損」として計上します。
資産を売却する場合
減価償却資産を売却した場合は、売却益や売却損を計上しなければいけません。
売却した時点の帳簿価額を売却額が上回ったときは「固定資産税売却益」、下回った場合は「固定資産売却損」として差額を計上しましょう。
たとえば、40万円で購入して30万円を減価償却したパソコンを12万円で売却した場合、2万円の利益が出たとみなされます。仕訳方法は以下の通りです。
借方 | 貸方 |
現金 / 120,000 | 器具備品 / 400,000 |
減価償却累計額 / 300,000 | 固定資産売却益 / 20,000 |
減価償却資産を正しく処理しよう
減価償却資産を購入したときは、状況に応じた処理を行わなければいけません。個人事業主か法人か、届け出を行っているかどうか、取得した資産の金額がいくらか、といった複数の要因で処理方法や計算方法が変わるため、慎重に処理を行ってください。
また、中古の減価償却資産を取得することもあるでしょう。このような場合も、取得価額に応じて耐用年数を算出する必要があります。
減価償却の処理方法を間違えると決算内容にも影響が及ぶため、慎重に処理を進めなければなりません。
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執筆・編集
「月次決算に役立つ情報」編集部